池田屋のシーンは震えながら演じた 鈴木亮平さんが語る『燃えよ剣』と新選組の魅力

リアルな死闘に「死ぬのか」、恐怖と高揚感

 この映画で、特に多くの観客の目を引くのは池田屋のシーンだ。事件の舞台となった旅館をオープンセットで当時そのままに完全再現して撮影された。

 近藤役の鈴木さんは新選組の黒い隊服を身にまとい、二手に分かれて尊王攘夷派の熊本藩士、宮部鼎蔵(三浦誠己)を探した末、通りから池田屋の屋内へ。台本にして10ページにも及ぶシーンの長い死闘をダイナミックに演じ切った。

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 この映画は新選組を決して美しい集団とは描いていない。そこが個人的にはすごく好きですね。例えば彼らの目的も、本気で国のためなのかと言えば、そんなことはなくて、自分たちの美学だったり、武士であろうとする思いだったりする。

 初代筆頭局長の芹沢鴨の暗殺の仕方も、非常に生々しくて残虐。原田監督の演出には歴史を冷静に見る視点があって、原作とはまた違う面白さを感じました。

 個人的に印象に残っている撮影は、やはり池田屋のシーンです。リハーサルで監督から「1回自由に斬り合って」と言われて、木刀を持たされて30人ぐらいの(敵役の)役者がいる部屋に乗り込んで、乱戦になる。それを基にあのシーンが作られています。

 最初の1人を階段で斬って、そのまま(2階に)なだれ込んで何十人もいる彼らの姿を見た時に「ここで死んでやる!」「こちらが死ぬか、それとも相手が全滅か」といった思いが浮かび、ものすごい恐怖感と高揚感を覚えました。

 もちろん、本物の死と隣り合わせだった近藤とは比べるべくもありませんが、「多分、彼も同じような感覚を味わったはず」と思った瞬間は震えました。こんな感情を味わえる人間は本当にひと握りしかいない。それはまさに役者だけが感じられる醍醐味(だいごみ)だったと思うし、こんなにぜいたくな仕事はないなと改めて感じました。

山岡鉄舟を演じてみたい

 撮影はコロナ禍の前でしたが、今のような状況だと、ここまでの物量を注ぎ込んだ大規模な映画はなかなか作れません。これだけの規模の映画が次に見られるのは10年後でもおかしくない。そういう意味でぜひ見るべき映画になったし、歴史を真正面から描いた正統派の時代劇に出演できたことを光栄に思います。

 もし、今後幕末を描いた作品に関われるとしたら、為政者側の幕臣を演じてみたい。名前を1人挙げるとしたら山岡鉄舟。僕はこれまで維新側の中央にいた人(西郷)と佐幕派の末端にいた人(近藤)を演じたわけですが、彼らとは全く違う意図の下で幕府は動いていたはず。鉄舟は剣術に優れていて頭も切れ、勝海舟の使者として西郷と交渉もしている。そういう人の視点からはまた別の幕末がよく見えてくるのではないかと思います。(聞き手・時事通信編集委員 小菅昭彦、カメラ 入江明廣)

■鈴木亮平(すずき・りょうへい)■
 1983年3月29日生まれ、兵庫県出身。「椿三十郎」(森田芳光監督、2007年)で映画デビュー。映画の代表作に「海街diary」「俺物語!!」「海賊と呼ばれた男」「羊と鋼の森」「忍びの国」「ひとよ」「孤狼の血 LEVEL2」など。「土竜の唄 FINAL」が11月19日公開予定。

(注)司馬遼太郎の「遼」はしんにょうに点が二つ

・企画制作・時事通信社総合メディア局

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