55年ぶり開催、大阪・関西万博あと3年 「起爆剤」期待も東西で温度差【けいざい百景】

2022年06月15日15時00分

 1970年以来、55年ぶりに大阪で開催される2025年国際博覧会(大阪・関西万博)まであと3年を切った。誘致段階から積極的に関与した関西経済連合会の松本正義会長(住友電気工業会長)は「万博を踏み台として高く跳ぶきっかけにする」と強調。東京一極集中が進み地盤沈下が指摘される関西経済の起爆剤として万博への期待は高い。

 しかし、新型コロナウイルスの影響もあって資金集めなどの開催準備には遅れが懸念され、国内での万博への関心も高いとは言えない。国内主要パビリオンの概要は発表され、来春には建設も開始される計画だが、海外から参加を表明した国・地域はまだ目標に達していない。万博は成功に向け正念場を迎えている。

「いのち輝く未来社会」

 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、25年4月13日~10月13日の半年間に渡って開催される。開催場所は大阪湾にある390ヘクタールの人工島・夢洲で、来場者約2820万人、経済波及効果約2兆円を想定している。

 中核となる「テーマ館」は映画監督の河瀬直美さんら各界のトップランナー8人がプロデューサーとなり、「いのち」を主題にそれぞれのパビリオンを監修する。さらにパナソニックグループや住友グループなど13の企業・団体パビリオンの参加が決定しているほか、海外からも世界150の国と地域、25の国際機関を目標に参加を募っている。

膨らむ負担金に懸念

 懸念されているのが相次ぐ費用の増加だ。万博会場の建設費は当初1250億円と見積もられ、その時点で国、経済界、大阪府と大阪市の3者で等分することとなった。松本関経連会長は、万博誘致の決定以前から水面下で企業に負担を要請。自らが所属する住友電工に加え、住友グループや在阪企業などの協力を取り付けた。

 しかし、資材や人件費の高騰を受け、建設費は総額1850億円に膨張。当初は400億円程度だった経済界の負担も約600億円に増加した。関西では増加分も含め企業からの寄付に一定のめどが立ったとみられているが、松本会長は「万博は国家イベント。関西企業は既にかなり努力をしている」とし、今後は関西以外の企業に資金集めを期待している。

 これに対し、経団連の十倉雅和会長は1月に関西の企業経営者らと懇談した際、「経団連として寄付集めをしており、手応えは感じている」と述べたが、資金確保のめどは示せていない。その後、ロシアのウクライナ侵攻なども重なり、原材料高は想定を大きく上回っているとみられ、さらなる追加負担も懸念される。

 松本会長も5月下旬の記者会見で「初めの設計とは違ってしまい、なんぼ掛かるか分からない。1850億円では難しいと思っている人は多いのではないか」と上振れの可能性を認めつつも、「それ(1850億円)でやってもらわないと困る」と注文を付けた。

 資金負担は建設費だけにとどまらない。中核となる「テーマ館」の費用は、各プロデューサーが企業などから資金を募って展示を行う。これまでに江崎グリコなど関西基盤の企業を中心に24社が協賛を表明しているが、各パビリオンに必要な費用や企業の協賛額は非公表。ある関西財界首脳は「資金集めが得意でないプロデューサーもいる。そもそも資金が足りているのか、不足しているのかも分からず協力のしようがない」とこぼす。

万博期待に温度差

 経団連の準備が進んでいないのは、コロナ禍で東京五輪の開催が一年遅れとなり、万博へシフトできなかったという事情はある。とはいえ、今万博に延期はなく残り3年で開催にこぎ着けるには全国的な機運醸成が必須条件だ。

 しかし、関西と関東のいずれにも拠点がある企業の幹部は「関東では万博が25年に開催されることすら浸透しているとは思えない」と東西の温度差に不安を募らせる。三菱総合研究所が21年4月に実施したアンケートでは、万博に関心があると回答した人は京都、大阪、兵庫の2府1県では49.5%とほぼ半数。これに対し、埼玉、千葉、東京、神奈川の1都3県では23.8%にとどまった。

 関東での機運が高まらないことを不安視してか、万博を運営する日本国際博覧会協会は今年3月から、関連する発表の中心を東京にシフトした。ある財界関係者は「本来なら関西から情報発信すべきだが、全国的な盛り上がりには東京での認知度を上げる必要がある」と話す。

 一方で、四国のある県の広報担当者は「せっかく関西での万博。なんとか絡んでいきたい」と話す。万博に訪れる外国人観光客らを関西から誘致すべく活動を強化する方針だといい、関西以外での期待も今後は高まっていくとみられる。遅れが指摘されていた海外からの参加表明も6月14日時点で120の国・地域となり、目標の8割に達した。

経済効果は不透明

 大阪で2度目の万博を開催する意義について、大阪商工会議所の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長)は、「夢を語り実現するきっかけにしたい。関西だけでなく、日本、アジア経済の夢を実現するには目標がないといけない」と精神面での価値を強調する。その上で「例えば関西には大学や企業などで医療や製薬の知見が集約している。万博を契機に連携を強め基幹産業として成長させたい」と展望を語る。

 一方で、関西基盤の企業の中には「これほど人を集められるイベントは他にないということは理解できるが、投資を回収できるほどのリターンは考えづらい」と、経済効果に疑問を呈する声もある。

 万博後には、夢洲の一部で大阪府と市が民間に委託してカジノを含む統合型リゾート(IR)を開業させたい考えだが、広大な万博跡地全体の利用計画は未定だ。多額の投資に見合う成果とレガシーを次世代に引き継げるのか、それとも人工島に立ち並ぶ負の遺産を残すことになるのか。万博まであと3年、残された準備の時間は多くない。

(2022年6月15日掲載)

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