日銀「債務超過」という「悪夢のシナリオ」
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金融政策決定会合で初のマイナス金利政策の導入を柱とする追加金融緩和を決定後、記者会見する日本銀行の黒田東彦総裁=2016年1月29日、東京・日本橋本石町の日銀本店【時事通信社】

鷲尾香一
 日本銀行は昨年11月13日、「引当金制度に関する検討要請について」なる文書を発表した。その内容は、「『量的・質的金融緩和』の実施に伴って生じ得る日銀の収益の振幅を平準化し、財務の健全性を確保する観点から、麻生太郎財務大臣に対して、引当金制度による対応の検討を要請した」というもの。この発表は、マスコミの取り上げ方も小さく、市場でも話題にはならなかった。

 だが、これは黒田東彦総裁の進める「量的・質的金融緩和」(以下、異次元緩和)により、日銀の財務が不健全になりつつあることを自ら吐露したものであり、非常に重大な意味を持つ。そして11月20日、閣議において日銀の引当金積み増しを可能にする政令改正が決定した。これにより、日銀は異次元緩和の実施に伴って生ずる損失に対して、引当金を積むことが可能になった。

異次元緩和で積み上がった「超過準備預金」

 では、「異次元緩和の実施に伴って生ずる損失のための引当金積み増し」とはどのようなものなのか。

 日銀自身は、「法定準備預金(以下、準備預金)のうち、超過準備預金額に相当する分の保有長期国債の利息収入」から「超過準備預金に対する利払い費用」を差し引いた利益の50%をメドに引当金の積み増しが可能、と説明している。

 日銀と当座預金取引のある銀行(日本の銀行のほとんど)は、自分の銀行が顧客から預かっている預金の一定割合の現金を「準備預金」として日銀の当座預金口座に預けることが義務付けられている。これは、たとえば“取り付け騒ぎ”などのように預金者が一斉に多額の預金を引き出しに殺到した場合などに、現金が不足しないようにするための措置で、万が一のときには、日銀に預けられたその現金がすぐさま当該銀行に運ばれることになる。

 この準備預金として義務付けられた金額以上の日銀への預金を「超過準備預金」と呼ぶ。

 では何故、義務付けされている以上の額である「超過準備預金」が発生するのかといえば、まず、日銀は異次元緩和のために、市場を通じて莫大な金額の国債を購入している。この購入代金が国債の売り手である銀行など金融機関に渡り、市中の資金が余剰状態になって金利が低下するのが、異次元緩和の仕組みだ。しかし、銀行にしてみれば、保有していた国債を日銀に売却した多額の代金が入ってきても、リスクが少なく多額の融資を行える融資先など、そうそう簡単に見つかるものではない。かといって、自分の金庫に入れておいても一銭の得にもならない。そこで、余剰な資金を日銀の当座預金に預けてしまうのだ。超過準備預金には年0.1%の利息が付くため、低金利で利ザヤが薄く、貸し倒れリスクのある融資を行うよりも、超過準備預金の方が確実に利息を生み出すからだ。

 つまり、日銀の新たに積み増しが可能となった引当金とは、この巨額の超過準備預金と同額の保有国債から得られる利息収入から、超過準備預金に対して支払った利息を差し引いた残りの利益の50%をメドとしている、ということだ。ちなみに、50%という割合は、これだけ引き当てすれば大丈夫だろうという日銀独自の計算式によって導き出されたものだが、その根拠、計算式についての説明はない。

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