「AIIB」は習政権の頼みの綱:急降下する中国経済
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インドネシアの首都ジャカルタで行われたアジア・アフリカ会議(バンドン会議)60周年記念首脳会議の開会式に参加する中国の習近平国家主席=2015年4月22日、ジャカルタ【AFP=時事】

高村悟
 中国の成長率が急降下している。今年1~3月期の実質成長率は7.0%と、昨年10~12月期の7.3%からさらに低下。「4~6月には6%台突入が確実」(証券系アナリスト)の情勢となった。過去5、6年、成長を牽引してきた過剰なインフラ建設、不動産開発を抑制し、成長を健全化しようとする習近平政権の政策が背景にある。だが、成長率低下は膨大な過剰生産設備を抱える中国産業を全面崩壊させるリスクがあり、雇用不安、消費低迷も招きかねない。起死回生を狙った習政権が進めるのが、この数週間、世界を揺さぶったアジアインフラ投資銀行(AIIB)である。

中国全土に出現した「鬼城」

 中国の成長率は2007年の14.2%を直近のピークとして、ずるずると低下、昨年は政府目標(7.5%)を下回る7.4%まで低下した。大きな流れを捉えれば、中国経済は30年間以上続いた高度成長期を終え、成熟化への入り口にさしかかったといえる。アジアで同じように驚異の成長を遂げた日本や韓国がたどった道に重なる。ひとつ違うのは、中国がまだ1人当たり国内総生産(GDP)が6000~7000ドル水準の“中進国”で、農村に限ってみれば依然、途上国並みという点だ。日本、韓国や欧米の先進国は、高成長の過程で国民全体の経済水準が底上げされ、工場労働者、農民も中流と呼べるまでになったが、中国は底上げができないまま成熟化しようとしている。中国でこの数年、回避すべきリスクとして指摘されて来た「未富先老(豊かになる前に老いてしまう)」である。

 構造的な低下傾向が見え始めた胡錦濤政権の後半から、中国政府がすがったのはインフラ建設、不動産バブルである。必要性や収益性を度外視した高速道路、高速鉄道、港湾、空港、工業団地、高層ビル、集合住宅などが全国に驚異的な勢いで建設された。その主役は地方政府と国有企業、不動産デベロッパーであり、財政資金に加え、ヤミルートでの資金調達が活用された。ヤミの資金とはシャドーバンキングであり、その調達手法の1つが庶民を巻き込んだ高利の「理財商品」だった。

 その結果、中国各地で槌音が響き、鋼材、セメント、アルミなどの素材からトラック、鉄道車両、重電機器、プラントなどの需要が生み出された。その効果はすさまじく、中国の成長押し上げだけでなく、2008年9月のリーマンショックからの世界経済の回復を中国の需要が牽引した。

 だが、作っているうちは需要を生んでも、完成してしまえば多くのインフラは利用されず、全国に人の住まないマンション群、車の通らない高速道路、工場の建たない工業団地など「鬼城(ゴーストタウン)」が出現した。さらに、建設資金の返済をしようにも多くのインフラは収入を生まないため、地方政府やその外郭企業は重債務を負うことになり、返済を受けられないシャドーバンキングや不動産会社の破綻が昨年あたりから現実化し始めている。

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