台湾クライシス 有事の可能性はどこまで高まっているのか?

2022年01月14日

【第3回】中国は台湾の離島を奪う

 2021年7月、中国共産党創立100年式典で習近平国家主席(党総書記)は「祖国統一は党の歴史的任務だ」と表明した。習氏が「歴史的指導者」にふさわしい実績を確立するため、「台湾統一」を目指しているという見方は強い。危機はどこまで差し迫っているのか、日本はどのように備えるべきなのか。シリーズ「台湾クライシス」最終回は、戦略学者の奥山真司氏に現状分析を聞いた。(時事通信外信部デスク・前中国総局特派員 北條稔)

 ◇既成事実づくり狙う中国

 ―米中経済安全保障調査委員会報告書で「中国軍が台湾侵攻の初期段階の能力を獲得したか、しつつある」と評価された。しかし、運用が始まったばかりの強襲揚陸艦「075型」3隻を実戦力に含めており、かなり誇張されているのではないか。

 上陸作戦は非常に難しい。特に、台湾は崖やリアス式海岸が多く、上陸地点が限られる。中国軍の能力では台湾への上陸作戦を実行できない。

 台湾有事を想定した米国のシミュレーションで、水上艦だけであれば米軍が中国軍に負けるという結果が出ている。しかし、米軍が潜水艦も使うと中国にとって厳しいと中国軍は分かっていると思う。中国はなるべく米国と正面衝突しないレベルで既成事実を積み上げていこうとするだろう。

 米国の地政学者、ヤクブ・グリギエル氏は少しずつ自らに有利な既成事実をつくっていくことを「プロービング(探り)」と呼んでいる。中国が小さい島を取る、あるいは人工島を造るなどの行為に対して、米国は正面から介入しづらい。これがプロービングに当たる。具体的には、台湾南部から約420㌔、中国本土から約250㌔に位置する東沙諸島のような離島を取ろうとすることが考えられる。

 ―中国が東沙諸島を占領した場合、米国が本格的に介入することは。

 今の段階ではないと思う。基本的には今後5~10年は中国は自らに有利な既成事実を積み上げていこうとするだろう。これに対して米国が動かなければ、米国の同盟国の間で米国に対する信頼が損なわれる。

 歴史的に大国は力を付けると自分の近隣の海を取ろうとしてきた。英国も米国もそうだった。中国が台湾海峡を越えて台湾を取りに行こうとするのは当然の流れだ。

 中国は南シナ海に人工島を造った。かつて近隣の海を勢力圏に入れて影響力を拡大した米国は「ここを取られたら、次は航行の自由がなくなり、中国は世界展開していくだろうな」と考える。中国が東・南シナ海を掌握してから外に出ようとする発想は「一帯一路」構想に表れている。

 ◇日本政府は有事に備えよ

 ―香田洋二元海将が「米国のシミュレーションはあえて米軍が負ける条件で行っている」と指摘していた。

 その通りだ。負けないと教訓にならない。あえて負けるシナリオにしている。勝てない状況の中から教訓を引き出すことに重点がある。

 未来予測は難しい。世界の安全保障の専門家が最近重視しているのは「レジリエンス(回復力)」だ。何かあったときに組織が対応できるように備えないといけない。台湾危機があるかもしれないと国民に知らせて、政府が対処する訓練をするべきだ。台湾有事が起こるという前提でイメージトレーニングをすることは日本政府にとって必須の課題だ。

 ―22年に2期目の任期が終わる習氏は27年までの3期目に続き、少なくとも35年ごろまで最高指導者であり続けようとしているようだ。しかし、習氏にそれほど大きな業績があるわけではない。

 過去に覇権国に対抗した国が「今がチャンスだ」という誘惑にかられて失敗するパターンがよくある。中国がそうなりつつあるのではないか。今は経済の調子が良い。でも、人口はこれから減る。経済成長も鈍化する。「今が祖国統一のチャンス」と考えて、下手な軍事行動を起こすかもしれない。27年や35年あたりを念頭に警戒しないといけない。大きな戦争になるかどうかはともかく、紛争に備えるのは当然だ。

新着

オリジナル記事

(旬の話題を掘り下げました)
ページの先頭へ
時事通信の商品・サービス ラインナップ