2022年01月07日
2021年3月に米軍のデービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)は上院軍事委員会公聴会で、台湾情勢について「6年以内に危機が明らかになる」と言及した。27年は中国軍創立100年に当たり、習近平国家主席(党総書記)の3期目の任期が終わる節目の年だ。危機はどこまで差し迫っているのか、日本はどのように備えるべきなのか。小野田治・元航空自衛隊航空教育集団司令官(空将)に現状認識を聞いた。(時事通信外信部デスク・前中国総局特派員 北條稔)
◇中国に有利に傾く軍事バランス
―デービッドソン氏による発言で「近い将来、中国が台湾を攻めるのではないか」という緊張感が高まった。
彼は6年ぐらいで中国の脅威が顕在化すると言っただけで「攻めていく」とは言っていない。にもかかわらず、報道では「6年以内に中国が台湾に侵攻するかもしれない」という話になった。あの後、ミリー統合参謀本部議長が当面可能性はないと話した。デービッドソン氏の真意を話しただけで、2人が逆のことを言ったわけではないだろう。
―東アジアでの戦力バランスは。
明らかに中国に有利に傾きつつある。
―現状で中国軍が台湾侵攻を成功させる可能性は。
今は低いだろう。台湾に上陸する力があるとは思えない。
―6年後、あるいはさらに時間がたてば。
危険が高まる。3隻目の空母は2022年に進水するかもしれない。戦力化は1年か2年くらいかかる。つまり24年か25年には就役する。強襲揚陸艦「075型」も3隻目が試験航海を始め、任務に就くのはあと1年後。中国海軍は艦艇を350隻以上持っていてさらに増える。全世界で活動する米国は約300隻しか持っていない。中国の活動範囲はアジアだけ。船の数で言えば完全に逆転している。
ただ、台湾に対して正面から武力侵攻するというのは考えにくい。ヒットアンドアウェーのような限定的な攻撃や海上封鎖をするかもしれない。台湾の住民を恐怖に陥れて、台湾の中で半分くらいの人が「大陸(共産党)に従った方が良い」となれば、蔡英文・民進党政権は倒れるかもしれない。中国と協調する政権が生まれて平和的に統一することになれば、米国も日本も反対できない。それが中国にとって一番良いシナリオではないか。
◇特殊部隊潜入の可能性
―ロシアがクリミア併合したときのように台湾社会を混乱させた後に中国軍が動く可能性は。
すでに中国軍関係者が台湾にいるかもしれない。特殊部隊がもう入っていて、何かのタイミングで蔡総統を拉致するというような作戦もあり得ると思う。大船団を組織して上陸作戦を展開するという可能性はゼロではないが、そんなことはやらないと思う。
中国が台湾を取ってしまえば、沖縄県・尖閣諸島は手に入ったも同然だ。台湾よりも先に尖閣に特殊部隊を送るようなことはないだろう。日本はちゃんと頭の体操をしておかないといけない。「これが起きたら、どうする」と前もって考えておけば、いざというときに早く結論を導き出せる。
◇練度上がる中国空軍
―中国空軍の実力をどう分析するか。
非常に強くなっている。特にこの2年、台湾の防空識別圏の西側によく出てくるようになった。明らかに活動量が増加し、台湾が公表する飛行の軌跡や機種を見ると、かなり訓練が進んでいるように思える。
―米国防総省報告書によると、台湾周辺に配置されている中国軍の戦闘機は計700機。台湾側は400機だ。
中国軍の戦闘機の数は増えている。彼らの方が有利だ。飛行機は集中して投入できる。21年10月1~4日に多数の飛行機が台湾周辺に飛んだ。(台湾周辺の作戦を担当する)東部戦区と(南シナ海を担当する)南部戦区の境目当たりから出ている。
―実戦を想定して飛行訓練をしている?
そうだと思う。1日に50機も戦闘機が飛んでいる。航空自衛隊だと3、4個の飛行部隊が同時に同じ空域で訓練していることになる。これはすごいことだ。
―予算が十分でないとできない。
そうだ。計画も綿密にしておかないと危ない。そうでないと飛行機同士がぶつかる可能性もある。
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