壊れた夢の宿「諦めない」 DIY技術生かし、応急修繕に奔走―県職員杉野智行さん・能登地震
石川県輪島市の黒島地区でDIY技術を生かして被災地を奔走している人がいる。夢だったゲストハウスの開業を目前に能登半島地震に見舞われながらも、地元仲間と「黒島応急修繕チーム」を立ち上げた石川県職員、杉野智行さん(36)の活動を20日取材した。
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黒島地区は、黒瓦が特徴の伝統的な町並みを残す、国の重要伝統的建造物群保存地区だ。杉野さんは古民家の一つを買い取り、ゲストハウスとして改修。6月のプレオープンを目指し、壁を塗り直したり、一枚板のバーカウンターをしつらえたりと、自ら手作業で準備を進めてきた。
思い描いていたのは、「海や山の幸を振る舞う『漁師で猟師』のゲストハウスオーナー」だった。船舶免許や狩猟免許、第2種電気工事士といった必要な資格を次々取得。3月には14年間勤めた県職員を辞め、第二の人生を歩み出そうとしていた。
元日。ハウスは倒壊を免れたものの、瓦は落ち、内部も物が散乱した。惨状を目にして「言葉を失った」という杉野さんだが、かつて復興支援職員として派遣された東日本大震災の被災地での記憶がよみがえった。「作業は水の泡になったが、黒島地区の暮らしが戻れば、ゲストハウスはもっと必要とされるはず」。町の復旧に向け、その日から動きだした。
黒島地区の避難所では、自宅の雨漏りや割れた窓を放置せざるを得ない住民が多くいた。杉野さんは「動ける人間が動こう」と、若手の仲間4人で応急修繕チームを発足。仕事の合間を縫って、壊れた屋根や窓をシートでふさいだり、破損したガレージから車を搬出したりして、20日までに8軒で応急修繕した。
働く意義を見失った時期、一人旅で訪れた各地のゲストハウスでさまざまな人と出会ったことで、立ち直れたと話す杉野さん。「自分の人生のレールの上にいない人と出会える、そんな宿をやりたい。絶対に諦めない」。夢の再建に向け、奮闘を続ける。