「自己肯定感崩れ視野狭く」 元少年の心理、専門家分析―東大前刺傷12日初公判・東京地裁
東京都文京区の東京大前で昨年、大学入学共通テストの受験生ら3人が刺された事件で、殺人未遂などの罪に問われた当時高校2年の男(19)の裁判員裁判が12日、東京地裁で始まる。少年審判で家裁は、事件の発端について「成績が低迷し、存在意義がなくなったと考えた」と指摘。犯罪心理の専門家は「自己肯定感が崩れ、視野が狭くなって常識的な判断ができなくなったのだろう」と分析する。
起訴状などによると、名古屋市に住んでいた男は昨年1月15日朝、東大農学部正門前で受験生の男女2人と70代男性を包丁で刺して重軽傷を負わせるなどしたとされる。
名古屋家裁は昨年6月の少年審判で、「東京大を志望し猛勉強していたが成績が低迷し、周囲から進路変更を勧められ存在意義がなくなったと感じた。重罪を犯せば罪悪感から自殺できると考えた」と指摘し、検察官送致(逆送)を決定。翌7月、東京地検が起訴した。
東京未来大こども心理学部長の出口保行教授(犯罪心理学)は「唯一自分の存在を肯定する手段だった成績の優秀さが崩れ、何物にも代え難い喪失感があったのではないか」と推察。「『誰かに負けたら終わり』ではなく、人の優しさなどで自己肯定感を保たなければいけなかった」と話す。
また、「普通は検挙されるリスクや失うもののことを考えて思いとどまるが、(被告の)男は視野が狭まり、怖いものがない状態で突っ走った可能性がある。視野が狭いと、自分がやったことの重大さを認識するのも難しくなる」と分析する。その上で、「組織に属さない単独犯『ローン・オフェンダー』の特徴で、京アニ事件や京王線、小田急線の刺傷事件にも当てはまる」と指摘した。
事件発生から約1年9カ月。男が公開の法廷で何を語るのかが注目される。